最新情報
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GSG Impact JAPANは「インパクト測定・マネジメント(IMM)とインパクト指標を題材とした投資家とインパクト企業との対話・議論ワークショップ第2弾」(以下、「本ワークショップ」。事務局:社会変革推進財団(SIIF))を2025年3月に開催しました。
GSG Impact JAPANでは2023年7月にインパクトIPOワーキンググループ会合を組成し、2024年5月にインパクト企業が活用できるガイダンスをとりまとめ、関係者とともに対話を重ねていくことの重要性を提唱しました。
このガイダンスに沿って、インパクト企業がインパクト投資家や専門家と対話・議論を行い、インパクト企業が上場時・上場後に直面するリアルな課題を浮かび上がらせ、今後のガイダンスの改良に反映させることを目的に、これまでワークショップを開催してきました。
第1弾開催結果プレスリリース:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000005.000063932.html
第2弾開催結果プレスリリース:
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000063932.html
本記事では、本ワークショップにおける海外インパクト投資家、国内インパクト投資家・専門家、インパクト企業のそれぞれの具体的なコメントを紹介しながら、その視点や着眼点、課題や工夫、学びや気づきを開催レポートとしてまとめています。海外インパクト投資家からの総評では、本ガイダンスが非常に良く整理されたフレームワークとしてまとめられており、本ワークショップの参加企業が主要な論点を参考にしながら情報を開示し、インパクト志向の投資家の期待に応えている、という高い評価を得ることができました。
本ワークショップのさらに深い示唆を得るため事務局の社会変革推進財団(SIIF)の公式noteブログでは、本ワークショップに参加した上場インパクト企業のユカリア社へのインタビュー記事を掲載いたします。ぜひ併せてご覧ください。
参加者のコメントを集約し、以下の4つのトピックに分類しました。
(1)事業性に関する情報の開示
(2)インパクトに関する情報の開示
(3)事業性とインパクトの繋がり
(4)非財務資本の活用
以降、参加者それぞれの立場からどのような視点、課題、気付きがあったかを紹介します。
全体として、本ワークショップでは海外投資家の参加もあったため、日本特有のルールや市場環境など、事業理解の前提知識の説明が大切であることが分かりました。そのうえで、サービス・商品・顧客のペルソナや事例紹介を通じて、自社のビジネスモデルや競合優位性、追加性(自社の貢献)をもっと明確にすることが求められるでしょう。さらに、主の事業テーマが環境課題であったとしても、社会面でのインパクトを捉え、環境・社会の両面から説明することで、より投資家からの評価が高まるのではないかという指摘も重要です。
国内投資家・専門家からは、KPIを開示する際、「under promise, over deliver(控えめに約束して、結果は大きめに残す)」のアプローチをとることでネガティブな反応への対抗策を取ることや、技術成長などのアンフェア・アドバンテージ(立ち上げ期の知見や優位性)がどう継続的に事業成長に活かされていくのかなど、そもそもIMM以前の事業性に関する情報開示の有効性に関するコメントが寄せられました。
海外投資家からは、プレゼンテーションにおける表現や説明方法など、よりテクニカルな視点に重きをおいたコメントが寄せられました。例えば、海外投資家に馴染みのある取引先の事例を早い段階で紹介したり、具体的なケーススタディを含めて商品・サービスの内容や社会的・環境的成果を説明することが、魅力的に映るということでした。また、事業のESGリスクについても言及がありました。例えば、企業は投資家のガイダンスや規制当局への報告に依らず、インパクト戦略を策定し、重要なESGリスクを定義し、サステナビリティ報告書を通じてネガティブ・インパクトについても触れることを期待したいとのことでした。
インパクト企業からは、対外的に説明することで自社の課題理解が進んだり、事業性に関する情報開示のポイントや中長期的な視点の重要性に気が付いたなど、事業の伝え方や説明の構成などの改善に役立ったというコメントが多く寄せられました。
全体として、インパクトの「納得感」や「厳密性」、それらをどこまで求めるかのバランスに関するコメントが多かった印象です。より大きなインパクトを志向すればするほど、その説明は難しくなります。この問題に対して、何をこのビジネスで達成したいのか、どんなインパクトを出したいのかということを定量的かつシンプルに示し、その試算の前提や根拠の提示については、コスパを考慮しながらできる限り最善を尽くした上で、測定や開示の限界についても説明するというスタンスで良いのではないかという助言は示唆があります。また、受益者やステークホルダーの声を拾い、貢献の「ルート」や「仕方」の解像度を高めることで、投資家にとっての納得度が高まるのではないかというコメントが寄せられました。例えば、インパクトを定量的に提示する際、厳密な予測でなくとも売上対比でのインパクトを示すという提案も、とても有効な情報開示の一つの方法だと思われます。
国内投資家・専門家からは、必ずしも定量的なデータばかりではなく、それを補完するためにストーリーや定性的証拠(事例研究、証言など)を活用することも推奨されたり、定量的なデータの測定・マネジメントに学術機関やデータアナリストと提携することも提案されました。社会全体の変化に対する個々の企業の貢献度合いを厳密に説明することは難しいため、むしろ直接的な貢献に関する確かなデータを収集し、インパクトの道筋(活動と成果の論理的なつながり)を明確にすることが重要というコメントが寄せられました。
海外投資家からは、システム全体に及ぼす影響を過大に主張するのではなく、貢献のルートについて明確な仮説を立て、定性的な評価も活用して説明する有用性が提案されました。納得感が得られれば、例えばシナリオや市場シェア対比での社会的/環境的成果を説明することも可能になります。その他、貢献の対象・範囲について、満足度や生活向上に関する調査を行い受益者の声を拾うことや、提携先における財務的・非財務的アウトカムの両方についても理解を助ける情報を期待したいとのことでした。こうしたデータの収集方法は、多くの企業が抱えている課題でもあるため、共有することは有益でしょう。
インパクト企業からは、インパクトに関する情報の開示の限界について認識し、開示のバランスと誠実さが求められることがわかったというコメントが寄せられました。定量的なデータだけではなく、定性的な情報開示においても、事業が何に貢献し、最終受益者がどう変化しているのかといったストーリーテリング、ロジックモデルを用いた全体的な枠組みの要約、長期ビジョンに向けて重要なKPIと必要な改善を明確に定義し、説明することの重要性を学んだ、といったコメントも寄せられました。
全体として、財務的観点での事業成長とインパクトの関連性を明確にする点についてはまだまだ改善の余地が大きいという印象です。ガイダンスでは、事業性に関する情報開示とインパクトに関する情報開示の関連性を示すためのフレームワークを提供していますが、本ワークショップを通じて具体的なポイントについて解像度の理解が高まったように思われます。
国内投資家・専門家からは、IMMによる上場の前後の変化に着目し、資本コストは下がったか、離職率は低下したか、経営陣の意欲は向上したか、といった財務面、組織面、経営面での投資対効果を検証するのも良いアイデアだという示唆が提供されました。
海外投資家からは、インパクトのロードマップを可視化することに加え、その長期ビジョンに到達するために何が必要なのか、どのようなビジネスモデルを考えているのかを理解したいというコメントが寄せられました。その他、各社の事業モデルに対して、例えば営利モデルでやることの利点(拡張性やコスト効率、アウトリーチの可能性など)にどのような特徴があるのかや、競合の代替品と比較した価格設定の議論は、インパクト投資家にとって非常に重要だというコメントも寄せられました。
インパクト企業からは、インパクトとビジネスを一致させること、ビジネスKPI、戦略、インパクトの関係強化が自社の重要な強みであることを再確認したというコメントや、投資家が期待する本質的な情報(財務情報とインパクトをどのように結びつけるか)を理解できたというコメントが寄せられました。
全体として、財務資本、人的資本などの6つの資本に着目し、事業拡大のためにどのような非財務資本がどの程度必要なのかといった対話が多かったことが印象的です。ガイドラインの中では、6つの資本がインパクトと財務リターンのサイクルを増強させていく「ポジティブ・フィードバック・ループ」の概念を説明しています。どんな資本戦略を立てることでビジネスがどう成長していくのかということが示せるようになれば、ガイダンスの実用性が高まる可能性があります。
海外投資家からは、会社の歴史、創業のストーリーを理解したいというコメントが寄せられました。インパクト投資家にとって、こうした情報は、企業の成長の蓋然性やインパクト創出の意図を示すとても重要な要素になり得るということが示されました。
インパクト企業からは、人材・組織の観点から、チーフ・インパクト・オフィサー(CIO)とチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO)に求められる役割、専門性、マインドセットは何かといったコメントや、組織のプロセスにインパクトを統合するアプローチにおける多様性を認識するのに役立ったというコメントが寄せられました。
引き続き、ワークショップの開催などを通じて、インパクト企業や資本市場関係者による本ガイダンスを参照した取組を推進してまいります。今後、取組事例や活用フィードバックが十分に積みあがった段階で、さらにガイダンスを改善することを目指します。今後の活動については、本ウェブサイト上でも発信をしてまいりますので、是非ご参照ください。
ガイダンスを参照した実践事例の積み上げが、ガイダンスの進化とインパクト企業の価値向上への貢献に繋がります。本プロジェクトにご関心のある以下の方々は下記問い合わせまでご連絡ください。ガイダンス活用のご相談、投資家と企業が対話する機会をご提供します。
・インパクトIPOを検討中の未上場企業
・インパクトIPO後の投資家との対話や情報開示に悩む上場企業
・インパクトIPOを検討中の企業への投資を検討したい投資家
・インパクトIPOに関する知見を共同開発し、普及したい専門家
<問合せ先>
インパクトIPOワーキンググループ事務局
一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)(担当:菅野)
lab@siif.or.jp