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調査研究
インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を議論する「インパクト投資に関する勉強会」の第5回目が、4月15日(木)にオンラインにて開催されました。
第5回では、上場企業株式・債券を通じたインパクト投資をテーマに、事例を共有した上で、ESG投資とインパクト投資の違いや関連性、上場企業株式・債券の金融市場が生んでいるインパクトはどのように生まれているのか、今後、上場企業株式・債券のインパクト投資を質の高いものとし、かつ増やしていくためには何が必要かなどを議論しました。
冒頭に座長の高崎経済大学学長水口剛氏、副座長の金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー池田賢志氏の両者からご挨拶をいただいた後、SIIFインパクト・オフィサー小笠原由佳より、上場企業株式・債券を通じたインパクト投資市場の概要・現況についてご説明しました。未上場株式がインパクト投資の議論の中心となることが多いですが、上場株式・債券のインパクト投資は、他の資産クラスに比較して近年増加傾向にあること、国内におけるソーシャルボンド発行額は2020年度で9,150億円にのぼり、急拡大していることなどが紹介されました。
次に、事前に共有したブラックロック社による上場株式インパクトファンド「BlackRock Global Impact Fund」のQuyen Tran, Director of Impact Investingによる動画について、ブラックロック・ジャパン株式会社サステナブル投資推進部長の内藤豊氏および同社運用部門株式戦略部長の入山千恵子氏より解説いただきました。同ファンドでは、マテリアリティ(重要性)、アディショナリティ(追加性)、メジャラビリティ(測定可能性)を重要なインパクト投資基準としており、投資先企業は他の企業や政府では満たすことが出来ない環境・社会課題解決を提供している必要があります。また、投資企業のインパクト創出のため、インパクトを重視したエンゲージメントを行っており、インパクトとリターンの関係では、インパクト企業群は成長率が高い割には割安な価格となっているという過去の実績が紹介されました。また、このファンドでは,SDGs、IMP、IRIS+、IFCのインパクト投資の運用原則といったIMMの国際的なフレームワークを可能な限り幅広く取り入れているとの説明がありました。
その後、りそなアセットマネジメント株式会社株式運用部シニア・ファンド・マネージャーの羽生雄一郎氏より、同社が設立したばかりの日本株を対象とする「りそなローカルインパクト投資」について説明を頂きました。この取り組みは、同社のパーパスを起点とし、「持続可能で住みよい日本社会の実現」を目指したものです。なぜ、上場企業株式を通じたインパクト投資が必要か、他のアセットクラスと比較した利点は何か、という点については、その事業規模の大きさ、活動領域の広さ、リソースの豊富さの観点から創出しうるインパクトが大きいという点、また、インパクト投資機会を広く個人投資家に届けるという意味での大衆化の価値が指摘されました。また、「意図とは何か」という点については、投資先企業側と運用者側のともに意図を持つことが重要であり、また、投資先がミッションビジョンを掲げているだけではなく、意図と戦略と実行がしっかりとともなっているか、という点を重視しているとのことでした。「社会のために大それたことはしていない」という企業であっても、どのようなインパクトを社会にもたらしうるのかをその企業に理解して頂き、インパクト拡大の創意工夫について意見交換することもエンゲージメントの価値であるとのお話がありました。成果の把握については、課題を見出し解決し続ける潜在力が重要である、という点も重要であり、また、計測についても投資先がその意義を理解してもらえるよう、丁寧な対話とエンゲージメントが必須であるとのお話が印象的でした。
続いて、SDGs債組成を通じた取り組みとその課題について、大和証券株式会社デット・キャピタルマーケット第三部SDGsファイナンス課長清水一滴氏より報告を頂きました。債券は、公募増資、新株予約権付社債といったエクイティ・ファイナンスと比較して、機動性、利便性の高い調達手段であること、また、SDGs債の種類としては、資金使途限定型のグリーン/ソーシャル/サステナビリティボンドや、資金調達使途に制約はないものの、サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)の達成度合いに応じてクーポンが変動するサステナビリティ・リンク・ボンド(リンクボンド)等があること、また、ICMAのグリーンボンド原則、ソーシャルボンド原則に基づき資金使途やレポーティングが定められていることをご説明頂きました。また,リンクボンドに社会的意義を見出して購入するのに、SPT未達の場合、経済的価値であるクーポンがさらに上がる、という点について、投資家より疑問が呈されることもあると指摘されました。更に資金使途限定型のグリーンボンド等では、発行体の全社的な目標へのコミットメントが不明瞭である一方、リンクボンドでは必ずしも環境インパクトを創出するプロジェクトに資金が使われるとは限らないという点を説明頂きました。この双方の弱点をカバーする「サステナビリティ・リンク・グリーンボンド」として、高松コンストラクションの事例がご紹介されましたが、現時点では資金使途限定型のグリーンボンド等の発行が多い、という点もご紹介されました。
その後、清水一滴氏、りそなアセットマネジメント株式会社執行役員責任投資部長の松原稔氏、ニッセイアセットマネジメント株式会社ESG推進部チーフアナリストの林寿和氏、マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社クレジット調査部長の押田俊輔氏を迎えて、水口座長のファシリテーションのもとパネルディスカッションが行なわれました。
まず、ESG投資におけるエンゲージメントとインパクト投資におけるエンゲージメントの違いや、エンゲージメントとIMMの関係について議論がなされました。ESGに関してのエンゲージメントと、インパクトに対するエンゲージメントの違いは「意図/インテンション」であり、企業のパーパスや意図、投資家のパーパスや意図をどうすり合わせていくのか、そこが、インパクト投資における醍醐味であるとの指摘がありました。また、IMMの実施が必要不可欠であるとともに、それ以上に大事なことは、アカウンタビリティとレスポンシビリティであるとの話もありました。さらに、企業活動を通じて生まれたインパクトの測定とともに投資家のエンゲージメントの効果の測定も必要ですが、後者は厳密に計測することが難しいため、プロセスを開示し、それをアセットオーナーや投資家がプロセスの妥当性を判断する方向ではないかと指摘されました。債券におけるIMMについては、日本では発行体との対話がそこまで進んでいない現状があり、またICMA原則の「レビュー」も任意であることから、まずは発行時に発行体とその目的や意図についてどれだけ合意できるかが重要であるとの指摘がなされました。
また、3月に導入された欧州のサステナビリティ開示規制(SFDR)のような、厳密な制度化された政策が日本で必要か、という点についても意見が交わされました。制度や規制の導入により推進される部分もあるであろうが、原則主義の立場にたって,何を目指しているのか、どういう目的なのかについてしっかりわかるようにする方が創意工夫も進みやすいのではないか、また、現時点では導入するとなると実務上の整理が難しいのではないか、といった意見が出されました。
その後、ブレイクアウトセッションを行い、「日本で上場株式/債券を通じた質の高いインパクト投資を増やすには何が必要か」「投資家の需要喚起をするためにはどうしたらよいのか」について、複数のグループに分かれて議論が行われました。
前者については、インパクト投資はやはりインテンションが重要であり、また、インパクトが将来的な企業価値の源泉となることや、インパクトと経済的リターンへの効果の検証がなされていくことが重要であるため、そのためには、好事例の共有が必要ではないかという指摘がなされました。
後者については、個人投資家の掘り起こし、特に高齢者から若い層への資金が還流されるような仕組みが必要ではないか、といった指摘や、情報発信の質の向上の重要性が挙げられました。また、英語での情報収集・発信によるグローバルとの連結とともに、日本の独自性も説明していく必要があるとの指摘がありました。
当日は、金融・市場関係者、事業者、業界関係者等からなる委員33名が出席し、関係省庁・オブザーバーも含めると約100名程度の参加がありました。
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次回は、6月29日の開催を予定しています。
資料
第5回 「インパクト投資に関する勉強会」 議事次第
資料2 上場株式向けインパクト投資概観(SIIF小笠原由佳説明資料)
資料3:上場企業株式インパクト投資の取り組み(りそなアセットマネジメント羽生雄一郎様説明資料)
参考:「インパクト投資に関する勉強会」 次回以降のテーマ(案)
※他の資料につきましては公開しておりません。
<座長・副座長・登壇者等プロフィール:登壇者は議事次第の掲載順> |
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座長 水口 剛氏 高崎経済大学学長: 副座長 池田 賢志氏 金融庁 チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー: <Black Rock Video Presentation(動画)> <登壇者 *議事次第の掲載順> 入山 千恵子氏 ブラックロック・ジャパン株式会社 運用部門株式戦略部長: 清水 一滴氏 大和証券株式会社 デット・キャピタルマーケット第三部 SDGsファイナンス課長: 松原 稔氏 りそなアセットマネジメント株式会社 執行役員責任投資部長: 林 寿和氏 ニッセイアセットマネジメント株式会社 ESG推進部 チーフアナリスト: 押田 俊輔氏 マニュライフ・インベストメント・マネジメント株式会社 クレジット調査部長: |