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調査研究
インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を議論する「インパクト投資に関する勉強会」の第6回目が、6月29日(火)にオンラインにて開催されました。
第6回では、融資・地域金融を通じたインパクト投資をテーマに、事例を共有した上で、融資・地域金融ならではのインパクト投資の特徴、融資におけるIMMの難しさや、非上場・上場株式投資におけるIMMとの違い、地域課題解決や地域経済の持続的成長に向けた金融機関の役割や地域社会との共創のあり方等を議論しました。
冒頭に座長の高崎経済大学学長水口剛氏、副座長の金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー池田賢志氏の両者からご挨拶をいただきました。今回の勉強会のテーマである融資について、日本の資金循環全体のなかでも融資は非常に重要なツールである点や、地域金融の重要性等についてコメントを頂きました。また、先般の金融庁「サステナブルファイナンス有識者会議」でとりまとめられた報告書について両者からご報告があり、同報告書においてインパクトファイナンスの重要性が言及されたことや、「インパクト投資に関する勉強会」において引き続き議論・検討を進めていくことについても記載されたこと等が紹介されました。
続いて、SIIFインパクト・オフィサー小笠原由佳より、事前に共有したCalvert Impact Capitalのインタビュー動画に基づき、同ファンドの取り組み概要を解説しました。運用資産約5.5億ドルの非営利団体であり、これまでに20億ドルの資金調達を実施してきた同ファンドでは、Community Investment Notesという債券を発行し金融仲介機関への融資を行っており、IFCのインパクト投資運用原則に基づいてIMMを実施しています。IMMにおいては、①投資家へのインパクト、②融資先機関へのインパクト、③コミュニティへのインパクト の3つの軸でインパクトのマネジメントを実施していることが特徴であり、すべての融資先インパクトを四半期に一度モニタリングし、スコアカードを用いたインパクトマネジメントを実施するなど、先進的な取り組みを実施していることが紹介されました。
その後、三井住友信託銀行経営企画部サステナビリティ推進部主任調査役の林田稔氏、第一勧業信用組合連携企画推進部長の篠崎研一氏、静岡銀行ソリューション営業部法人ファイナンスグループ長の鈴木達也氏、金融庁地域課題解決支援室長の日下智晴氏の4名のご登壇者から、各組織における取り組み事例を紹介して頂きました。
三井住友信託銀行の林田氏は、同行によるポジティブ・インパクト・ファイナンス(以下、”PIF”)の取り組みの背景として、まずはUNEP FIの責任銀行原則(PRB)やポジティブ・インパクト金融原則を取り上げ、これらのイニシアティブではSDGs達成への貢献を示すという観点でインパクト志向が中核的思想となっている旨をご解説頂きました。同行ではグループ全体でPIFを推進すべく、インパクトを中心に据えた中期経営計画を策定したこと等、また、企業の価値向上と持続可能な社会構築を目指すフレームワークや、目標設定とモニタリングを含むインパクトマネジメントのプロセスについてもご紹介頂きました。その中で、インパクト評価を「社会・経済・環境の目標に対する進捗を示し伝えること」と、従来の非財務情報開示(サステナビリティ報告)との違いを明確に示しているUNDPとGRIが共同で発表したレポートの内容について紹介されたことが印象的でした。
続いて、第一勧業信用組合の篠崎氏が、同組合におけるインパクト金融の取り組みをご紹介頂きました。篠崎氏はまず、銀行(メガバンク、地方銀行)と協同組織金融機関(信用金庫、信用組合)の違いや特徴について解説を行い、第一勧業信用組合の経営理念の中核に、地域経済の繁栄や地域住民の幸せが据えられていることをご説明されました。その後、具体的な商品として、コミュニティローンや創業関連融資、ソーシャルビジネス応援ローン等の内容をご紹介頂くとともに、現状抱えている課題として、インパクトの測定や審査基準への組み込みの難しさ等についてご共有頂きました。最後に、地域金融機関の今後の展開として、行政や地域団体等と連携した裾野拡大・取り組み推進の必要性等についても言及されました。
次に、静岡銀行の鈴木氏が同行のPIFの取り組みをご紹介しました。PIFは、お客様にとっては「新たな企業価値向上手段」、銀行にとっては「新たな事業性評価」や「次世代審査基準の確立に向けた布石」との意義があるとし、同行でUNEP-FIのツールを用いて外部の第三者評価機関とも連携しながら、PIFを実践していることをご紹介頂きました。また、評価プロセスにおける確認ポイントや融資先とのヒアリングシート内容等についても具体的にご紹介頂きました。お客様にとってはESG/SDGsの社内体制整備や従業員の意識向上等といったメリットが大きいという点、定性的な事業性評価は地域金融機関の特性を活かせる分野であるという点を指摘され、将来は財務面のリスク・リターン評価のみでなくインパクトの側面を評価基準に組み込む時代が来るといった見解や、PIFはリレーションシップバンキングの延長線上にあるといった見解を述べられました。
その後、金融庁の日下氏が、金融庁の地域課題解決支援についての取り組みをご紹介しました。金融行政の変化や金融庁改革の内容をご紹介するとともに、具体的なプロジェクトとして「ちいきん会」(地方創生に関心ある公務員と金融機関職員の交流会)や「地域ダイアログ」の内容や成果についてご紹介頂きました。また最新の動向として、コロナ禍の影響を受けた企業の再生を目指し、金融機関専用の「事業者支援ノウハウ共有用プラットフォーム」を創設したことや、金融庁と環境省で連携した「持続可能な地域経済社会の活性化に向けた連携チーム」の発足についてもご共有頂きました。
4名のご登壇者のプレゼンテーションの後、三井住友信託銀行フェロー役員の金井司氏、第一勧業信用組合の篠崎研一氏、静岡銀行ソリューション営業担当部長の池田正嗣氏、金融庁の日下智晴氏を迎えて、水口座長のファシリテーションのもとパネルディスカッションが行なわれました。
まず、地域金融機関が地域や社会をいかに活性化できるのか、という問いに対して、各パネリストから様々な意見が出ました。例えば、地方銀行の役割は地方創生そのものであり、中小企業が抱える事業承継等の課題に対応し地域経済を盛り上げることによって人口減少を食い止め地域経済の活性化に貢献していくことが重要との意見が出されました。また、グローバルな環境・社会課題を見ているメガバンクと地域社会の課題を見ている地域金融機関とでは、スコープが異なるものの基本的な考え方は同じであるとの指摘もありました。たとえ大企業に対する融資であっても地域社会・経済への視点は重要であり、地域経済のエコシステムへの影響等も考慮しなければならず、そうした中で、大手銀行と地域金融機関との連携は今後一層重要になってくるとの意見が挙がりました。
また、東京と地方における地域金融の違いについての議論では、東京ではプレーヤーも多く経済的にも恵まれている一方で、地方ではプレーヤーが少なく、何もしなければ経済が下向きになってしまう状況であるとの指摘がありました。地方では特に、周りの事業者や行政と一緒になって協力して地域経済を盛り立てていくといった視点での活動が必要であり、若者の参入や地域外からの呼び込みが必要であるとのご意見が挙がりました。
前段のプレゼンテーションで「PIFはリレーションシップバンキングの延長線上にある」との発言があったことを受け、今後のPIFの発展について、PIFが通常の融資業務の一環になっていくだろうかといった議論になりました。従来のように過去の業績をベースに財務面の評価を実施するだけではなく、将来を見据えた定性評価を行ったり、環境の観点を融資の格付けに取り入れたりする等、銀行による企業の価値を測る基準を変えていくことが必要であろうとの意見が挙がりました。また、金融機関が提供するのが資金だけではなくなってきており、お客様に対して付加価値をどれだけ提供できるかという視点が重要となる中、その一つの形がPIFであり、地域金融機関のビジネスモデルの変革につながってくるとの話になりました。
また、エンゲージメントのあり方について、すべての取引先・融資先にインパクトを求めていくべきかという問いに対して、理想はそうであるが、ポートフォリオベースでのインパクトマネジメントと個別企業のインパクトマネジメントを両面から進めていくべきであるとの意見が挙がりました。PRBのフレームワークでも示されているように、銀行は自らのポートフォリオベースでインパクトの大きいセクターに対してインパクトマネジメントを行いつつ、相対的に大きなインパクトを与えている企業に対しては、個別にPIFを展開していくことが必要であろうとの話となりました。企業によっては複数業種にまたがるため、その企業の事業ポートフォリオ全体を見ながらきめ細やかにエンゲージメントを行っていく必要があるとの意見が出されました。
インパクトファイナンス拡大のためには何が必要なのか、という議論では、金融機関自らが事業を始めるという転換も求められており、そのために金融庁による規制緩和も行われているとご紹介がありました。また、地方の中小企業のニーズとして、キャッシュフローを安定させるための支援、例えば補助金や税制優遇が求められているとし、そうした支援が今後のインパクトにつながっていくとの意見も挙がりました。また、金融機関の役割として、自身が主体となって地球全体のインパクトを生み出していくべきという潮流になってきており、金融機関がビジネスモデルを変革し、インパクトを志向していくことがより一層求められていくであろうとの見解も述べられました。
パネルディスカッションの後、ブレイクアウトセッションを行い、「中堅・大手企業向けを念頭において融資を通じたインパクト投資におけるIMMにおいては特に何が重要か」「地方創生における経済・社会課題の解決という観点から、地域金融機関による融資を通じたインパクト投資の推進においてどのような取り組みが特に必要となるか」について、複数のグループに分かれて議論が行われました。
前者については、企業がインパクト志向となりビジネスモデルを変換することが必要であり、それをインパクト評価によって可視化することが重要、融資の場合は投資以上に広範な企業が対象となるため雇用創出や税金を理由に全ての融資がポジティブなインパクトと見做される懸念がある、大企業はグループ全体・サプライチェーン全体でインパクトを考える必要があり広範な観点が必要、グリーンテックや脱炭素は時間軸が長いためプロジェクトファイナンスなども組み合わせながら行う必要がある、インパクト創出と融資期間では時間軸がずれるため何らかの中間評価が必要、IMMを審査の中に組み込むことが重要であり銀行のビジネスモデル変革が必要、といった指摘がなされました。
後者については、地域経済もグローバル経済の大きな波の影響を受けやすくなっており地域経済の支援は一層重要、地域金融機関が自らメソッドを作っていく必要はなく従来投資の世界で培われたIMMのメソッドを取り込んでいくのが良い、自治体との協働が今後一層重要であるが自治体は社会課題ごとに縦割り組織になっており連携しづらい、地域の社会関係資本や文化資本等を課題横断的に評価したうえで自治体と金融機関が連携していくのが良いのではないか、といった指摘がありました。
当日は、金融・市場関係者、事業者、業界関係者等からなる委員31名が出席し、関係省庁・オブザーバーも含めると約100名程度の参加がありました。
次回は、9月3日(金)の開催を予定しています。
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資料
第6回 「インパクト投資に関する勉強会」 議事次第
資料1-2 Calvert Impact Capital_動画書き起こし
資料1-3 Calvert Impact Capital Overview 資料
資料2 三井住友信託銀行におけるインパクトファイナンスの取組(三井住友トラストホールディングス)
資料5:金融庁の地域課題解決支援について(金融庁)
※他の資料につきましては公開しておりません。
<座長・副座長・登壇者等プロフィール:登壇者は登壇順> |
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座長 水口剛氏 高崎経済大学学長: |