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調査研究
インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を議論する「インパクト投資に関する勉強会」の第7回目が、9月3日(金)にオンラインにて開催されました。
第7回では、これまで約1年3か月間にわたって開催してきた本勉強会を「第一フェーズ」として振り返り、これまでの成果や今後の課題について議論しました。また、インパクト投資に関する国内外の動向についての情報共有を行い、本勉強会の第二フェーズの運営に向けて議論しました。
冒頭に副座長の金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー池田賢志氏からご挨拶をいただいた後、SIIFエグゼクティブ・アドバイザーの安間匡明より、事前に委員からコメント募集を行った文書「第一フェーズの到達点と今後の課題(案)」について、コメントを踏まえた主な修正点に関する報告を行い、修正内容に関する委員の合意を得ました。
続いて、一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ(SIMI)代表理事の今田克司氏が、インパクト測定・マネジメント(IMM:Impact Measurement and Management)に関する国内外の最新状況を解説しました。IMMは第3回勉強会でも取り上げたテーマですが、その後の国内民間の動きとしてGSG国内諮問委員会の傘下に設置されているIMMのワーキンググループの活動成果が紹介されました。また、海外の動きとして、IMMの普及が一層広まり、実践を支援する進展が見られることが説明されました。具体的には、IFCのインパクト投資運用原則(OPIM:Operating Principles for Impact Management)の署名機関が増加していること、グローバル・インパクト投資ネットワーク(GIIN)が発表したCOMPASSメソッドの内容、「インパクト認証」に関する動向、サステナビリティ開示におけるインパクトの主流化、会計基準への統合、各種研修プログラムの開設等の動きについての紹介がありました。委員からの質問を受け、インパクトウォッシュを防ぐという観点から、IMMや開示の在り方に関する議論が一層高まっていることやインパクト・インテグリティが重視されるようになっているといった動向についても解説して頂きました。
次に、特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会代表理事兼GSG国内諮問委員会副委員長の鵜尾雅隆氏より、Impact Taskforceの設置に関する情報共有を行って頂きました。2013年に当時G8サミットの議長国の英国政府が提唱し設置されたタスクフォースが、その後GSGと各国の国内諮問委員会の設置へ繋がりました。議長国が一巡りした2021年、G7サミット議長国の英国政府のイニシアティブにより7月に設置された今回のタスクフォースは、前回のタスクフォースと比較しても、より広く世界各国のビジネス、政府、ソーシャルルセクターリーダーが参加し、インパクトの透明性・インテグリティ、信頼性について議論し、インパクト投資を拡大する資金調達手段・民間資金動員の手法について検討していくとの事で、今後の動向が注目されます。日本からの参加メンバー等についてもご紹介頂きました。
続いて、環境省大臣官房環境経済課環境金融推進室の室長補佐である今井亮介氏より、環境省におけるインパクトファイナンスの推進についてご説明頂きました。環境省が定義するインパクトファイナンスの定義や意義について解説頂くとともに、「ESG金融ハイレベル・パネル」の成果や、同パネル下に設置された「ポジティブインパクトファイナンスタスクフォース」と「ESG地域金融タスクフォース」の活動についてもご紹介頂きました。また、環境省で実施している「グリーンファイナンスモデル事例創出事業」のスキームについてもご共有頂き、今年度より新たに、サステナビリティ・リンク・ローンやサステナビリティ・リンク・ボンドに加え、インパクトファイナンスのモデル事例を公募すること等がご紹介されました。参加者よりネットゼロに向けたインパクトファイナンスの役割について質問が挙がり、今井氏は、2030年目標の46%削減と2050年目標のネットゼロでは必要な投資の種類や時間軸が異なるため、それぞれについて進めていくことが必要との見解や、特に2030年目標の達成に向けては、小規模な投資需要をどうまとめて大規模な投資案件としていくかが課題といった見解を述べられました。
その後、金融庁総合政策局総合政策課サステナブルファイナンス推進室の室長補佐である小崎 亜依子氏より、金融庁による取り組みについてご説明頂きました。まずは「サステナブルファイナンス有識者会議」の報告書にてインパクトファイナンスの普及・実践の重要性について言及されたことがご紹介されました。また、インパクト投資に関する課題認識として、評価手法の確立に向けて更なる検討が必要でありアセットクラス毎に議論を進める必要があること、そして企業開示とインパクト投資間における好循環の創出が重要であるとの見解を述べられました。本勉強会の次フェーズへの期待として、①融資を含むアセットクラス毎の議論の深化、②企業開示とインパクト投資間における好循環の事例共有、③気候変動×インパクト投融資の議論の深化の3点をご提案頂きました。
上記登壇者によるプレゼンテーションの後、委員である株式会社日本総合研究所常務理事の足達英一郎氏より、ISO 14030(環境パフォーマンス評価)の動向についてご共有頂きました。ISO14030シリーズでは①グリーンボンド、②グリーンローン、③タクソノミー、④検証、の4つの規格が制定作業中であり、①②④の要求事項は本年9月に発行予定、③については再審議中でありEUタクソノミーとの関連がない形となる見込みであること等をご共有頂きました。①②は発行の手順であり、④については、グリーン債券のウォッシュ防止のための検証(Verification)という位置づけであるとご解説頂きました。
最後に、SIIFインパクト・オフィサー小笠原由佳より、本勉強会の次フェーズの運営計画を共有しました。第二フェーズでは、インパクト投資のベストプラクティスについて引き続き共有・議論していくとともに、傘下に株と融資債権についてのIMMの2つの分科会を設ける計画であること、第一フェーズからの変更点としては、本会議の開催頻度が2か月に1回から3か月に1回となること、オブザーバーの参加を無制限とすること、2つの分科会を設置すること、そしてこれまでSIIFが担ってきた運営事務局について、今後は金融機関からの参加も募っていくことが挙げられます。運営事務局を中心として、今後アジェンダ設定やケースの選定、スピーカー確保や議論の論点設定等を実施していく予定であり、金融機関からの積極的な参加を呼びかけました。
委員からは、次フェーズで議論していきたい点として様々なご意見が挙がりました。例えば、本勉強会をとおしてインパクト投資の質向上という側面で大きな進展があったので、今後は個別の投資レベルの議論からポートフォリオ全体としてどのようにインパクトを創出させていくかといったポートフォリオ・シフトの議論に発展させていくことが必要であるという意見がだれました。また、投資によって創出されるインパクトがサステナビリティという全体地図の中でどのように位置付けられるかといったホリスティックな視点が重要であること、インパクト投資の考え方を組織全体のサステナビリティ方針にどのように組み込んでいくかといった検討が必要であることという意見もありました。さらに、インパクト投資への資金流入の課題として日本のアセットオーナーや個人投資家のインパクト投資へのニーズが海外に比べて低いという点が挙げられるため、情報発信も含めて戦略的に進めていくことが必要等の意見が述べられました。
当日は、金融・市場関係者、事業者、業界関係者等からなる委員32名が出席し、関係省庁・オブザーバーも含めると約100名程度の参加がありました。
本勉強会の第二フェーズは、2022年初の開始を予定しています。
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資料
第7回「インパクト投資に関する勉強会」議事次第
資料1_第一フェーズの到達点と今後の課題
資料2_これまでの勉強会の振り返り・総括案のご説明(SIIF)
資料3_インパクト投資タスクフォースについて(日本ファンドレイジング協会)
資料4_インパクト評価(IMM)の国内外の動き(社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)
資料5_環境省による取り組みについて(環境省)
資料6_勉強会フェーズ2の事務局案についてのご説明(SIIF)
※他の資料につきましては公開しておりません。
<座長・副座長・登壇者等プロフィール:登壇者は議事次第順> |
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座長 水口剛氏 高崎経済大学学長: 鵜尾 雅隆氏 GSG国内諮問委員会 副委員長・認定NPO法人日本ファンドレイジング協会 代表理事: |