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金融庁・GSG国内諮問委員会共催「インパクト投資に関する勉強会フェーズ2」第5回勉強会が開催されました。
開催レポート 金融庁共催勉強会

2020年6月より開催している「インパクト投資に関する勉強会」のフェーズ25回勉強会が、2023530日(火)にオンラインにて開催されました。本勉強会は、インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を明らかにし、我が国金融業界の持続的な発展に資する推進の在り方について議論することを目的としています。

5回勉強会では、インパクト投資とイノベーションをテーマとして取り上げ、ディープテック未上場投資を中心に、インパクトを創出するために必要なイノベーションとは何か、金融はイノベーションとどう向き合えばよいか等について議論しました。

冒頭に、座長の高崎経済大学学長水口剛氏、副座長の金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー池田賢志氏の両者から、ご挨拶をいただきました。水口座長は、先日金融庁で行われた「インパクト投資に関する検討会」で議論された収益性という点を挙げ、社会課題解決と収益性の両方を実現するにはこれまでとは違うアイディアやイノベーションが必要であるという観点から、テクノロジーやディープテックの可能性についてコメントしました。池田氏は、インパクト投資検討会で社会課題解決とリターンとの両立の難しさが討論されたことを挙げ、本勉強会での議論が難しい課題解決の糸口につながることを期待すると述べました。

続いて、インパクト投資とイノベーションに関して、リアルテックホールディングス株式会社の藤井昭剛ヴィルヘルム氏、株式会社慶應イノベーション・イニシアチブ(KII)山岸広太郎氏、HERO IMPACT CAPITAL渡邊拓氏からプレゼンテーションをしていただきました。

まず藤井氏より、リアルテックのインパクト投資とイノベーションについてプレゼンテーションを行っていただきました。会社概要のご紹介の後、地球と人類が抱える深刻な社会課題(ディープイシュー)に対して研究開発型の革新的テクノロジーに投資していく、いわゆるディープテック投資の概要や可能性、投資先や投資家の顔ぶれ、アクセラレーションプログラムやエコシステムの形成、また、2021年から開始したインパクト投資のフレームワークについてお話しいただきました。

インパクト投資のフレームワークとして、①デューデリジエンス~投資実行、②投資実行後~バリューアップ、③売却、④インパクト投資手法の継続的アップデート、の4つの段階での取組みをご紹介いただき、また今後の課題として①創出済みインパクトではなくインパクト・ポテンシャルを評価することはインパクト投資とみなされるのかとの懸念、②人類の繁栄をドライブするテクノロジー(例えば宇宙)の扱いの難しさ、③素材やイネーブルテクノロジー(例えばAI)の貢献度を測定する難しさの3点を挙げられました。

続いて山岸氏より、KIIのインパクト投資とイノベーションについてプレゼンテーションを行っていただきました。ご自身の自己紹介と、大学発スタートアップ支援を始められた経緯等をご説明された後、大学発のスタートアップの潮流についてご説明いただきました。大学発スタートアップが増加しているなかで、慶應義塾大学発のベンチャー企業数は全国で3位という現状にあり、調達額では2022年にトップになったという現状をご紹介されました。慶應義塾大学のオフィシャルベンチャーキャピタルとして設立されたKIIは、大学の研究を活かし社会課題を解決し世の中を変えていくことを会社としてのミッションとしています。

続いてKIIが運営しているファンドをご紹介いただきました。現在2つのファンドを運営しており、リターンのみならずインパクトに関心を持つ金融機関の出資者が多いことを挙げ、準備中の3号ファンドではIMMの導入を検討しており、機関投資家にも参入していただきたいとの期待を述べられました。また、分野ごとの投資実績や成果もご紹介されました。投資戦略としては、「社会課題を発明や新技術で解決することで魅力的な事業機会を創造するチャンスがある」との考えを示し、大学の強みを活かした「発明や新技術」×「社会課題」×「事業機会」という3つの領域が重なるところが投資のスイートスポットであるとの考えを紹介しました。KIIとしてのインパクト投資は「社会課題解決を目的とし、社会的インパクトが把握可能な案件への投資・資金提供」であるとし、そのなかでのIMM導入意義としては、課題認識、機会の拡大、資金供給と投資先のバリューアップに貢献することを挙げられていますが、課題点として、①投資実行プロセスのなかでのVC側のリソース強化、②ファンド期間内に定量的なアウトプットが発生しないケースにおける、測定/レポーティング方法の開発、を述べられました。

続いて渡邊氏より、サステイナブルファイナンスによる次世代研究者への新たな資金循環についてプレゼンテーションを行っていただきました。自己紹介と「科学と金融による未来創造イニシアティブ」での活動の紹介に続いて、大学時代に個人で運用していた資産を研究者に投資したことをきっかけにした若手研究者の支援活動をご紹介いただきました。この活動が現在のHERO Impact Capitalの事業に繋がっており、同社は研究開発型スタートアップを若手研究者と共同創業するベンチャーキャピタルとして、脱炭素や超高齢化といった地球規模課題に対してインパクトを創ることを目指しています。

インパクト投資に関する取組みとして、①創業前から支援をして共同創業、②ダブル評価委員会として投資委員会とインパクト評価委員会を設置、③IR支援としてエクイティーストーリーを含むハンズオン支援を実施、といった取組みを実施しているほか、インパクト投資に関する体制として、財団を組合員に組み入れており、成功報酬が未来の研究者にも分配されるようにし、財団をエコシステム形成のためのコアと位置付けています。これによって、次世代研究者への資金循環が生まれるとともに研究者間のネットワーク構築にも繋がっていると述べられました。最後に課題点として、アセットオーナー/アセットマネージャーにアグレッシブなアロケーションをしてもらうためにはどのような説明責任を果たすべきか、どういった成功事例を作っていけば良いか、について対話が必要であるという点を挙げられました。

上記のプレゼンテーションの後、水口座長のファシリテーションのもと、3名の発表者でパネルディスカッションを行いました。まずは、ディープテックや研究シードを育成するために、投資側に求められることは何かについて議論を行いました。

藤井氏は、いかに投資先のスタートアップの成功確率を上げるかを重視する立場を取っているなかで、誤った技術や、サイエンスの根拠が無いところに投資をすることは避ける必要があるため、投資家としてそこは見極め力が大切だと述べられました。また、日本ではディープテックのエコシステムが出来ていないため、お金を出すだけでは上手くいかず、スタートアップ側でも事業開発の経験者を内部に登用するなどして一緒に成功確率を上げることが必要だと述べられました。山岸氏は、他の投資家よりも先に、シード・アーリー期からリード投資家として参画しバリューアップしていくというスタンスから、研究者の取組を理解し、専門家をコーディネートしながら実現性や収益性を高める事業計画を策定することが重要であり、加えて資金も重要になってくるため、多様なステークホルダーを活用しながら人と資金を提供しサポートする基盤を整えることが重要だと述べられました。渡邊氏は、CEO候補や経営者候補の方にエコシステムに入ってきてもらうための仕組みをつくることが鍵であり、また、研究者の取組をPEの若手に上手く通訳して伝えることで興味を持ってもらうという流れを作っていくことも重要という見解を述べられました。水口座長は、シードの探し方にはアクセラレーションプログラムや大学連携、研究者支援など、様々な方法があるが、エコシステムや資金循環の仕組みをつくることが重要という点は共通しているとの見解を述べられました。

続いて、ディープテック投資において、通常の投資とインパクト投資の差分はどこにあるのかについて議論を行いました。山岸氏は、コンセプトや投資戦略はそこまで変わらないものの、IMMを導入することによって、戦略的な意図をもつ機関投資家から資金を出して頂くことにつながると述べ、ファンドのセオリー・オブ・チェンジやどのように社会を良くしていくかについて言語化し説明を行うという点が従来の投資と異なると説明しました。渡邊氏は、インベストメント・チェーン全体でIMMに関する説明責任を果たすという観点から、LPに対してのみならず、スタートアップにとっても、社会的インパクトを理解することで、世の中にとってどれだけ価値があって市場の大きさがどれくらいなのかといったポテンシャルの明確化につながり、またキャピタリストの育成にもつながると述べられました。藤井氏は、3号ファンドからインパクトファンドと銘打ってIMMを取り入れているなかで、IMMの意義は投資家や社会に向けた説明責任という面があることに加え、事業の本質を突き詰めていくために良いフレームワークであると述べました。一方で、欧州を中心にインパクト投資の定義や手法が、ある意味より硬直化しつつある状況下、制度として、特にディープテックスタートアップにとって適用しづらいものになるという危惧も若干あり、スタートアップにとって本質的にどのような価値を創出できるのかに重きをおき、シード・アーリーテックに適したインパクト投資の手法について議論していきたいとの見解を述べられました。

水口座長は、ディープテックのインパクト投資においては、例えば量子コンピューターや創薬等、長期にわたって価値を生み出す可能性がある分野が対象となった場合、従来のインパクト投資のように具体的なインパクトを定量化するという手法がそぐわず、インパクトとして評価されにくいという点があるということを挙げ、議論の必要性を提起しました。山岸氏は、売上が出ていない時点のベンチャーの公正価値評価は困難な点を挙げつつ、インパクト面においても、ディープテックのインパクト評価ならではの新たな枠組みを提案できると良いとの意見を述べられました。渡邊氏は、実務の運用に合うかたちでステークホルダーが納得できるようなフォーマットをまずは作成し、更新しながら広めていくのが良いのではないかとの意見を述べられました。藤井氏は、世界でインパクト投資に資金を流さなければならないという潮流になってきているなかで、ディープテックへの投資は日本経済の活性化の主軸とも捉えられているため、この投資を活性化させる必要があり、いかに透明性を持たせて仮説を説明できるかが大切になってくると見解を述べられました。

委員も交えたオープンディスカッションでは以下のような様々な意見や質問が挙がりました。

質問:多くのスタートアップがIPOを目指しているが、上場株の投資家でBeyond ESGのポジティブ・インパクトを投資の判断軸に入れているところは日本ではまだ少なく、海外投資家のサイズ感の目線が日本のIPOには合いにくいという現実で、接続の工夫をしたいと思っている。IMMは未上場のフェーズでより効果的なものなのか。エグジットはM&Aのほうがよりそぐうのか。

山岸氏:日本のIPO全般の課題として、機関投資家が入ってきにくくスモールキャップであるという課題がある。ディープテックで大きなEXITを目指すには、今の一つの解としてはグローバルオファリング出来るか、場合によってはNASDAC上場を目指すか、ということではないかと考えている。サイズ感を上げて海外投資家と話せるようになることが必要。

質問:長期的でPatientな投資が必要であることを前提とすると、LP投資家がどこまで長く待てるのかという問題はあると思うが、LP投資家に待ってもらうことが良いのか、セカンダリーの投資家と連携して引き継ぐのが良いのか、クロスオーバー投資ができればよいのか等、どのような仕組みが日本で必要になってくるのか。

渡邉氏:インパクト志向や長期で持ち続けるという志向の投資家が多く出てこないと株価が上がらないため、現状ではアメリカで上場するしかないという状況であると言える。実感として、インパクト創出にチャレンジしているスタートアップは、パブリックマーケットに近づくにつれてIMMの効用が得られなくなる。ファンドの満期を長くする努力、セカンダリーでトレードセールできる環境づくり、アセットオーナーやゲートキーパーによるクロスオーバー投資、全てを同時にやらないといけないと考える。また、アセットオーナーに対して説明責任が果たせるように上場前から対話し準備していくことが必要。

藤井氏:ファンド満期を延ばしたとしても上場基準とマーケットそのものを変えないと厳しい。スピード感が重要な世界であるため、ファンド満期を長期化することがスタートアップにとって良いのかはしっかりと議論が必要。

山岸氏:ファンドの期間を延ばすのが良いのかは難しいところ。エコシステムを変えていくことも重要。

質問:IMMの手法について、一般的なIMM、つまりロジックモデルやToCを作成する手法と、テクノロジーをベースとしたディープテックのインパクト評価ではどのような違いがあるのか。創薬であればどれだけ患者を救えるか、素材であればCO2の削減につながるか、というようにインパクトがはっきりしている場合もあるが、そうでない場合もある。インプットについては、一般的なインパクト投資のようにヒトモノカネではなく、技術を支えているベースの技術は何なのかといった、技術寄りのインプット項目が必要であり、細かい分析をしないとディープテックのインパクト評価ができないのでは。

藤井氏:通常のIMMにおけるロジックモデル作成等の方法と、特に変えていないのが実態。例えば素材の場合だと、サプライチェーンが長く複雑なため、全てを書き出そうとすると非常に複雑となり評価に時間がかかり、色々な専門家が集まらなければインパクトへのpathwayが描けないというのが率直なところである。一定の仮説を置いて、仮説が間違っていたら書き直すという方法にしないと難しいというのは課題。

山岸氏:5 Dimensionsを全部やりきるのは難しいケースがある。ベースラインや閾値を投資決定の段階で理解するのは難しく、カウンターファクチュアルの定量的な分析も難しいのが正直なところ。

渡邉氏:シナリオが複数ある場合に、ある程度数値化はするが、シナリオ全てにロジックモデルは作っていない。しかし、評価委員会のメンバーに一緒の船に乗ってもらい力添えをいただくために、シナリオを複数持っておくとことは効果があると感じている。

質問:IMMをやることが本質的な価値を付与するものになるのか。グローバルでIMM手法の形骸化、硬直化が起こっていることについてどのくらいの危惧を持たれているか。土俵の違いがあるのではないかと考えており、欧米の場合はこのままでは地球が存続できないので何とかしなければならないというのが出発点になっているが、日本ではそうした大前提/土俵が共有されていないところがあるのではないか。

藤井氏:欧州はトップダウンでルールメイキングしており、プロセスやスタンダードが設計されているという認識。基礎技術の分野とインパクト投資は相性が悪い部分があり、例えば量子コンピューターといったイネーブル技術は将来的に社会構造変革の可能性があるものの実装は不透明であり、そのような分野はインパクト投資だとは見なされないという懸念がある。基礎技術への投資を捨ててよいのか、と言われると難しく、捨てずに投資を行うことによって将来的にウォッシュと言われるリスクもある。IMMはやるにせよ、インパクト投資というネーミングを使うかどうかは悩みどころであり、ポートフォリオの一部で今後の実装のされ方がわからない技術に投資するときにインパクト投資のルールを適用する価値があるのだろうか、というところは議論している。

渡邉氏:未踏技術がどのように社会に貢献するかについては指標化せず、真面目にIMMしない方が良いのかもしれない。運用レベルでどうやって上手く両立させられるかは、ベンチャーキャピタル間でも共有しながら、落としどころを探していきたい。

当日は、金融・市場関係者、事業者、業界関係者等からなる委員28名が出席し、関係省庁・オブザーバーも含めると約120名の参加がありました。

資料
フェーズ2第5回「インパクト投資に関する勉強会」議事次第

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