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投資家とインパクト企業の対話を促進する「インパクト指標」ワークショップ開催報告
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投資家とインパクト企業の対話を促進する「インパクト指標」ワークショップ開催報告

GSG Impact JAPAN National Partner主催、社会変革推進財団(SIIF)が事務局を務め、「インパクト指標を題材とした投資家とインパクト企業との対話・議論ワークショップ」が、2024年10月から11月にかけて計3回開催されました。本ワークショップは、インパクト企業によるインパクト測定・マネジメント(IMM)の実践を後押しし、資本市場における情報開示を強化し、投資家との対話を深化させるための具体的な取り組みを共有する場として設計されました。

 

開催の背景

GSG Impact JAPANのインパクトIPOワーキンググループは、2024年5月に「インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス 第1版」を発行しました。このガイダンスは、インパクト企業が未上場の段階から、上場を経て、上場後もインパクトを創出しながら持続的な企業価値向上を実現できるよう、インパクト企業と投資家をはじめとする資本市場の関係者との間において、情報開示等を通じて共通理解を醸成し、建設的な対話を促すことを目的として作成されました。

その後、インパクト企業へのヒアリングにより、ガイダンスをより活用してIMMの実践を進めるにあたって、「インパクトKPIの設計、測定、そのためのリソース確保、タイミング等」が多くの企業に共通する主な課題であることがわかりました。これを受け、今回のワークショップでは、インパクトKPI、その前提となるインパクトおよび収益創出の双方の視点から検討した事業戦略、経営の意思決定プロセスへの組み込み、それらに関する企業と投資家・専門家の間での建設的な対話、をテーマに開催されました。

 

ワークショップの概要

目的

本ワークショップは、インパクト企業によるIMMの実践、上場株投資家を始めとする市場関係者によるインパクト企業との建設的な対話の推進を目的として開催されました。上記を通じて、本ガイダンスに対する認知・理解に繋げ、ガイダンスの将来的な更新に向け、実践的なフィードバックを得ることも目指しました。

▶インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス 第1版

参加者

参加者としては、上場を目指す未上場企業だけでなく上場企業、その対話の相手として、インパクトファンドを運用する上場株投資家、インパクトIPOを支援する証券会社、IMMの専門家などの目的に忠実に関係者を特定しつつも、参加者の多様性の確保に務めました。

  • 企業
    • 未上場企業:株式会社ミライロ、株式会社ファーメンステーション、ヒューマンライフコード株式会社
    • 上場企業:アサヒグループホールディングス株式会社、株式会社丸井グループ
  • 投資家・専門家
    • 井浦広樹氏(りそなアセットマネジメント株式会社)
    • 岩谷渉平氏(アセットマネジメントOne株式会社)
    • 野村裕之氏(株式会社かんぽ生命保険)
    • 和田正嗣氏(みずほ証券株式会社)
    • 今田克司氏(一般財団法人社会的インパクト・マネジメント・イニシアチブ)
    • 須藤奈応氏(Impact Frontiers)

内容

本ワークショップは3日間にわたって開催され、1日目と2日目は各参加企業による発表と投資家・専門家との対話デモ、3日目は参加者全員を交えた学びの共有がおこなわれました。

  1. プレゼンテーション
    1日目と2日目は、まず、各企業が、自社のミッション・パーパス、ビジネスモデル、取り組む社会課題、インパクト創出の仮説(Theory of Change)、インパクトおよび収益創出の両視点から見た事業戦略、インパクトKPI、インパクトの経営の意思決定プロセスへの組み込みについて発表しました。更に、IMMに関する現状の課題や、投資家・専門家の方への質問も共有されました。
  2. 対話デモ
    次に、上場投資家、証券会社、IMM専門家が、企業との対話デモをおこない、活発な質疑応答や意見交換が繰り返されました。投資家・専門家から提供された様々な意見や質問に通底する観点として、インパクトと収益の創出、そして企業価値向上のポジティブフィードバックループをいかに実現するかがありました。具体的には、当ガイダンスに基づき、成長性(取り組む社会環境課題は何か・その動向をどう見るか、それに対し目指すインパクトは何か、成長戦略は何か、市場規模の拡張性をどのように見ているか)、持続的成長の蓋然性(競争力の源泉は何か、ネガティブインパクトを含むリスクをいかにマネジメントするか、ステークホルダーエンゲージメントとガバナンスのあり方)といった観点が参考にされました。
  3. フィードバック
    1日目と2日目の最後には、対話デモのやりとりなどを踏まえ、投資家・専門家から各発表企業へ気づきや今後に向けたアドバイスが提供されました。
  4. 振り返り

最終の3日目には、参加企業と投資家・専門家全員が一同に介し、1日目と2日目に各企業の発表後におこなわれた対話について、当ガイダンスに沿って振り返りながら、改めて学びや気付きを共有しました。

参加者の学びと気づき

  • 共通のフレームワークを持つことで、建設的な議論が可能に

当ガイダンスに記載されたフレームワークを活用することで、社内の関係者間や、企業と投資家間で、情報の整理が進み、建設的な議論が可能になったという手応えが複数の参加者から得られました。例えば、未上場企業からは、「それまでは、役員陣がそれぞれの想いや担当する事業にこだわった議論に終始してしまいがちでしたが、ガイダンスやフレームワークを活用することで、共通言語を持ちながら議論できた」といった社内経営陣による共通認識の醸成や、「社内で当たり前となっている論理や思い込んでいる制約を一度外して、フラットに投資家やステークホルダーの視点でインパクトや事業との接続について再考し深めるポイントがないかを発見するツールになる」といった投資家・専門家との対話を通じて新たな発見を得たといったフィードバックを得ました。上場企業からも、「開示している情報が会社HP、統合報告書など複数の媒体に散らばっており、それらを整理するためにガイダンスのフレームワークが役立ちました」といったインパクトと収益の関係性について一貫したストーリーを整理するためのガイダンスの有用性についてコメントがありました。

 

  • 目指すインパクトについて深掘りをし、より明確化するプロセスの重要性を再認識

投資家・専門家から各参加企業への対話デモでは、まず、取り組む社会環境課題や目指すインパクトについてより解像度を上げる質疑応答が多くされ、インパクトに向き合う真摯な姿勢の重要性が改めて確認されました。

「企業側からの説明と投資家の方々との質疑応答を通じて、インパクトがどう経営に根幹に据えられているのか、どのようなインパクト(What)を誰に対して(Who)どれぐらい(How Much)かを深堀りししていくプロセスを体感しました。双方が真摯にインパクトに向き合う姿勢の重要性が再確認され、それが今後のインパクト投資を形作っていくようにも感じました。」(専門家)

上場企業からも、「(専門家から指摘された)明確に定義されたアウトカム(well-defined outcome)」という言葉が非常に印象に残りました。…今後アウトカムをブラッシュアップしていく際には、数多くのアウトカムの中でしっかりと追求すべきアウトカムを明確にし、それに基づいた測定を実施していきたいと考えています。」という振り返りがありました。

投資家からは、「インパクト志向の浸透は、企業が実現したい、創出したいインパクトを自分たちで見つけ出すことが前提となる。事業活動を通じ創出したいインパクトを、その規模や時間軸について定性的かつ定量的に公表し、投資家のリスクマネーを引きつけてほしい。」といった、投資家からの評価ではなく、企業自らの意志がインパクト創出の起点になっていることの重要性や、具体的かつ積極的な開示を求める声が聞かれました。

また、投資家からは、ネガティブな社会的課題の解決よりも、ポジティブな新しい社会的価値の創造といった種のインパクトは計測がしにくく評価されにくく、定性的なストーリーでわかりやすく説明する必要があるのではないかという、意見もありました。

 

  • インパクト、収益、企業価値の向上の関係性の明確化

目指すインパクトの解像度を上げた上で、投資家からは、「インパクト視点と収益の視点について、両者の連動性を総括(コメント)してもらえると、企業が創出したいインパクトと事業(ビジネス)の関係について説得力や理解が増します」といった見方のもと、インパクトが収益性や成長性にどのように関係してくるのかについて深掘りをする質疑応答が繰り広げられました。

具体的には、「事業計画、KPIのあたりで右(収益)⇔左(インパクト)のフローを示したり、その相関性、因果関係等も示せるとより流れとして理解しやすくなるのではないか」や、「資本コストの低減につながっていること、株価のボラティリティ・βが改善していること、それは、取り組みの費用に比較してなおあまりあるプラスであることなどが重要」という指摘が投資家からあげられました。

その上で、インパクト指標が、インパクト、収益、企業価値の関係性やストーリーを表すために、様々な観点から適切な指標を特定する必要性が改めて認識されました。

「アウトカムを計測・評価する指標をどこに据えるか、ステークホルダーの観点、時間軸の観点、計測可能性の観点…など複数の視点から、全体感を捉えつつ今現在具体的であるという「ちょうどよい塩梅」を見つけることに難しさがある…。同時に、この指標のすえ方を俯瞰の視点と具体の視点できちんと議論をしきることで、ひるがえって自社のインパクトモデルをクリアに定義するきっかけになるのではないか…。」(未上場企業)

 

  • スタートアップと大企業などの企業の成長段階による違いへの対応の必要性

本ワークショップでは、様々な業態の未上場のスタートアップから上場済の大企業に至るまで、多様な企業にご参加いただきました。こうした参加企業の多様性が、企業によるIMMの実践やインパクトIPOの実現の議論を補強するという意見があげられた一方で、スタートアップと大企業における、IMMを実践する上での課題、開示できる内容、フレームワークの使い方などの違いが浮き彫りになりました。

例えば、上場企業からは、「複数のビジネスを展開する大企業では、すべてを一つにまとめて描くことは難しく、逆に複数に分けて描くと複雑で分かりにくくなるため、情報整理に課題があると感じました。ただし、…well-defined outcomeのように、すべてのアウトカムを描くのではなく、特に重要なものだけを描くというアプローチも有効ではないかと思いました。」という気付きが共有されました。投資家からも、大企業であっても全社一丸となってインパクト創出に向けて一貫した戦略を実行できていることが理想ではありつつ、「…「小さくも純度の高い一事業」として開示する場合は、仮にそれが全体からみれば一事例に過ぎないとしても、外部投資家は関心を持ちます」という後押しの言葉もありました。

また、特にスタートアップの場合、今後、会社の成長段階に応じて、どのようなタイミングでいかに戦略やKPIを更新し、開示すべきかについての議論がありました。投資家からは、「特に成長段階で上場する場合には、上場前からその(戦略や開示の変更の)予定を開示しておくことで、信用を醸成しやすいことが知られています。成長可能性資料や中期計画、資金使途の説明などを通じ、先々のシフトがあることを予告しておくことが肝要と思います。」というアドバイスがありました。

 

次回の期待と提案

  • 多くの参加者が「次回も参加したい」と回答しており、異なる業界や新たな参加者を交えた幅広い対話の実現を望む声がありました。主な理由としては、継続的な対話を通じて、最新の動向や事例、投資家の視点に触れ、自社の取り組みをブラッシュアップするためといった意見が太宗を占めました。例えば、未上場企業からは、「インパクトモデル自体は継続的にブラッシュアップしていく予定ですので、定点的な対話の機会があると嬉しいです。」といった意見や、専門家からは、「心理的安全性を持って対話できる場所に意義があると思います。対話を通じた改善サイクルを回せる契機になると思います。」という指摘がありました。また、企業にとっての改善だけでなく、投資家にとっても「企業や他の専門家の話を通じて自分自身の学びや気づきが得られた」といった情報交換の場になり得ることが分かりました。
  • また、当ワークショップにおける企業・投資家・専門家間の議論を通じて、今後の当ガイダンスの改善すべき点についてもあげられました。例えば、社会環境課題の構造分析のタスクをより目出しする、インパクトと収益の創出の関係性についての言語化、スタートアップと大企業など企業の成長段階に応じた開示のあり方などについて、当ガイダンスを今後どのように改善できるかについても意見が多く集まりました。

 

今後の展望

今回のワークショップを通じて、「インパクト企業の資本市場における情報開示及び対話のためのガイダンス」を実務でどのように活用できそうきか、具体例および一般則の抽出を行き来を、前に進めることができたのではないかと考えます。今後も、インパクト企業と投資家および資本市場関係者が、共通のフレームワークに沿って、自社のインパクト、収益、企業価値向上のポジティブフィードバックの実現に向けて、対話を通じて課題や手法を共有し、当ガイダンスの更新に向けた実践知を蓄積したいと思います。

参加者から寄せられた実践的な提案や気づきを基に、GSG Impact JAPANは、今後も、インパクト企業の経営および資本市場へのインパクト軸の組み込みを進めていきたいと考えます。

 

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