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調査研究

金融庁・GSG国内諮問委員会共催「インパクト投資に関する勉強会フェーズ2」第2回勉強会が開催されました。
開催レポート 金融庁共催勉強会

20206月より開催している「インパクト投資に関する勉強会」のフェーズ22回勉強会が、2022617日(金)にオンラインにて開催されました。本勉強会は、インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を明らかにし、我が国金融業界の持続的な発展に資する推進の在り方について議論することを目的としています。 

2回勉強会では、海外のアセットオーナーとインパクト投資の動向について共有するとともに、日本国内のアセットオーナーがインパクト投資に取り組むにあたっての課題や推進策などについて、意見交換、議論を行いました。

冒頭に座長の高崎経済大学学長水口剛氏、副座長の金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー池田賢志氏の両者から、ご挨拶を頂きました。昨今のウクライナ情勢に触れ、サステナブルファイナンスやインパクト投資を取り巻く環境が大きく変わり、自由と市場を通じた仕組みと、そうでない仕組みのどちらがより魅力的な社会を築くことができるのかという競争環境になりつつあり、新しい資本主義が本当に機能することを示せなければ、長期的に世界が望ましくない方向に向かってしまう大きな転換点にいるのではないかと言うご意見を頂きました。続いて、資本主義の仕組みの中で如何に外部不経済に対処するかという観点から、政府が本年6月に取りまとめた、新しい資本主義推進の実行計画となる骨太の方針についてご紹介頂きました。さらに、日本の金融市場がより効果的に機能するためにはアセットオーナーの取り組みの強化が必要であるとの認識の下、本勉強会での議論を受けて、アセットオーナーによる実践が進められることに期待が寄せられました。

続いて、SIIFインパクト・オフィサー小笠原由佳より、人事異動等により新たに委員となられた方のご紹介を行いました。

その後、SIIFナレッジ・デベロップメント・オフィサーの織田聡より、ヨーロッパの年金ファンドによるサステナブル投資の動向について紹介を行いました。ヨーロッパにおいて年金基金によるグリーン投資比率が近年増加傾向にあること、英国での調査によると、8割の年金加入者が化石燃料事業への投資からの撤退を希望している一方、日本においては、年金の積立金でESG投資を希望する割合は3割にとどまっており(公共財団法人年金シニアプラン総合研究機構による調査(2018年))、個人のサステナビリティ志向がまだ高くないことなどを紹介しました。

その後、SIIFの安間、及び、小笠原由佳より、本勉強会用に行った3つのインタビュー動画についての概要を紹介しました。まず、20217月に発表された「A Legal Framework for Impact」(Freshfields)の著者の一人であるDavid Rouch氏へのインタビュー動画に関し、同レポートの要点の解説、ESG投資とIFSIinvesting for sustainability impact)との違い、レポート発表後の業界関係者からの反響などが語られた旨を紹介しました。次に、オランダの年金基金であるPGGMPiet Klop氏へのインタビュー動画に関し、同年金基金が財務リターンとインパクトが重なる領域に投資していること、他のアセットオーナーと共通のタクソノミーを作り測定していることなどが語られた旨を紹介しました。最後に、インパクト投資を活発に実施されている、Nuveen社へのインタビュー動画を近日中に公開することをご説明しました。

次に、公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構特任研究員の三木隆二郎氏より、インパクト投資と受託者責任「GPIFがインパクト投資に取り組む為の法的環境についての考察」と題し、三木氏個人の意見として発表頂きました。ESG投資とインパクト投資には重なる部分があり、インパクト投資の中には、投資家に対して市場競争力のある経済的なリターンを生みながら、社会的なリターンを同時に提供する投資が存在していること、また、「A Legal Framework for Impact」では、手段的IFSI(サステナビリティ・インパクト目標達成が財務的リターン目標実現の手段となる場合)であれば、財務的リターンを達成するためにインパクトを追求することから、機関投資家はインパクト追求が認められる可能性が高いと結論付けられていることをご紹介頂きました。さらに、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、ESG指数に基づいた株式投資、グリーンボンド、ソーシャルボンド、サステナビリティボンドなどでの運用を既に行っており、ESG投資が結果として、 SDGs達成に大きく貢献すると認識している。つまりGPIFの行うESG投資には経済的リターンを獲得するために社会課題を解決するという意図があるとも解釈され得るので、「インパクト測定・開示」をすれば「手段的IFSI」に相当するのではないかとの意見を述べられました。最後に、GPIFの投資による社会的インパクトの測定・開示への国民としての期待を示されると共に、GPIFの投資が手段的IFSIに相当すると認められるのであれば、「積立金基本指針」の改定による法的環境整備をするべきではないかとの意見を述べられました。

続いて、PRI理事の木村武氏より、「責任投資とステークホルダー資本主義 -インベストメントチェーン上の新たな動き-」について、木村氏個人の意見として発表頂きました。まず、ESG投資の増加に比例してPRIの署名機関数も大幅に増加している一方、日本は他の先進国や新興国に比べて署名機関数の伸びが鈍く、ESG投資に取り組む日本の投資家の層の薄さが、本邦金融資本市場の活力低下に繋がりかねないことを指摘されました。次に、日本の投資家の間でPRI署名が広がっていない背景の一つとして、年金基金の署名が広がっていないことを挙げられました。特に、企業年金基金については、母体企業がサステナビリティへのコミットを強化する中にあっても、基金の責任投資に対するコミットメントが弱い状態が続いていることをご説明頂きました。また、ステークホルダー資本主義は、最終受益者の「サステナビリティに対する価値観や選好」を反映する形で、最終受益者が提供する資本が、インベストメント・チェーン上を循環することで実現するものであり、①年金基金は、最終受益者の価値観や選好を把握し、アセットマネージャーに伝達をすることが必要であること、②そして、これを実践することが、国民の声を聴く新しい資本主義・インパクト投資の実現につながるとのご意見を共有頂きました。また、海外での取り組みとして、企業年金基金の加入者に対して責任投資を呼びかけるキャンペーンの事例、年金加入者の意向を踏まえて投資戦略を設定している事例、受益者のサステナビリティ選好を取り入れるメリット、欧州の規制当局の動向などについても紹介頂きました。

その後、株式会社かんぽ生命保険 運用企画部長の野村裕之氏より、「かんぽ生命のインパクト“K”プロジェクト」についてご説明を頂きました。同社では、2021年度に全運用資産でのESGインテグレーションの導入を行ったことを皮切りに、インパクト志向の投資・ESG投資に対する取り組みを加速していること、ESG投資の重点取り組みテーマを設定し、かんぽ生命らしいあたたかさの感じられる投融資を促進していることをご紹介頂きました。次に、同社が新たに立ち上げたインパクト“K”プロジェクトについて、インパクトの創出を意図し、それに繋がるアウトプット等をKPIとして設定しつつ、純粋なインパクト投資のIMMの要件を柔軟にとらえることで、インパクト志向の投融資の拡大を図っていることをご紹介頂きました。さらに、インパクト“K”プロジェクトの社内認証プロセスや、具体的な取り組み事例として、国内上場株式を投資対象とした「コモンズ・インパクトファンド」へ100億円のコミットメント契約を締結したこと、同ファンドのKPI測定・公表の体制などについてご紹介頂きました。最後に、日本版スチュワードシップ・コードに適切に対応するために整備した、同社の責任投資体制について共有頂くとともに、ユニバーサルオーナーとしての責任を果たしていきたいとの思いを語って頂きました。

3名の登壇者によるプレゼンテーションの後、三木氏、木村氏、野村氏をパネリストとし、水口座長のファシリテーションのもとパネルディスカッションを行いました。

まず、水口座長より、日本の年金基金の最終受益者である個人が、インパクト投資を求めない場合にアセットオーナーはどのように行動するべきか、また、最終受益者の選好が明確に確認できていない場合でも、投資収益確保のためにインパクト投資を行う手段的IFSIであればインパクト投資を推進しても良いと考えるかとの問いかけがあり、各パネリストよりコメントを頂きました。

次に、木村氏より、①日本の国民のSDGsへの認知度や関心度は高いことを踏まえると、ESGやサステナビリティ・インパクトに対する個人の潜在ニーズは高いのではないか、②企業年金基金が受益者のそうした潜在ニーズを掘り起こすようなエンゲージメントを行っておらず、受益者の選好を把握できていないだけかもしれない、③したがって、受益者の選好が確認できていないからインパクト投資を行わないという受動的な姿勢ではなく、能動的に取り組んでいくことが必要なのではないかとのお話がありました。また、手段的IFSIであれば受益者の選好を確認しなくても進めることは可能だとは思うが、インベストメントチェーン全体のあるべき姿から考えると、受益者のサステナビリティに対する潜在的なニーズを掘り起こしつつ、アセットオーナーもサステナブル志向を高めていくことが必要なのではないかとのご意見がありました。

続いて野村氏より、日本国内でSDGsへの関心が非常に高まっている一方、投資によってサステナビリティを向上させることができるということが認識がされていない現状があること。また、かんぽ生命保険が、ユニバーサルオーナーとしてインパクト”K”プロジェクトなどを先頭を切って始めることで、国民ベースでのサステナビリティ意識の向上につながっていくことを期待しているとのお話がありました。また、インパクト投資のリターンや実際のインパクトを可視化することが、年金基金加入者の意識を高めるということに繋がるのではないかとのご意見がありました。

続いて三木氏より、年金シニアプラン総合研究機構が今年実施した、年金と投資に関する意識調査の集計結果の速報値のご紹介があり、環境・社会問題の解決に年金の積立金を使っても良いと思うかという質問に対し、積極的・どちらかと言えば使ってほしい・投資収益が確保されるのであれば使って良いと答えた人が約47%となり、若い世代の方が高齢者よりインパクト投資の認知度は高いと考えられるとのお話がありました。また、GPIFの立場から考えると、目的的IFSIではなく手段的IFSIのみを実施していくことを明確に示すことが重要であること、また、企業年金基金については、福利厚生の一環として設立された背景があり、アセットオーナーとしての意識醸成に時間が必要ではないかとのご意見がありました。

最後にフロアからの参加として、京都先端科学大学の加藤康之氏より個人の見解としてご発言頂き、欧州では社会的インパクトが経済的パフォーマンスに繋がることは自明であるとの認識があるが、日本ではまだそのような認識が広がっておらず、年金基金にとってハードルの差があることが共有されました。また、パフォーマンス評価について、ベンチャー投資ではJカーブ効果が広く認識され、トラックレコードの蓄積があることから年金基金も投資が可能なのであり、インパクト投資についてもインパクトと経済的パフォーマンスの関係の研究の蓄積が必要であるとのご発言がありました。

パネルディスカッションの後、ブレイクアウトセッションを行い、「日本で、アセットオーナー(特に年金基金を想定)によるインパクト投資を推進するには何が必要か。」、「日本で、個人のサステナビリティ選好を高めるには何が必要か。」について、複数のグループに分かれて議論が行われました。

前者については、アセットマネージャー側の取り組みとして、アセットオーナーが投資したいと思う商品の多様化、社会課題の分類・マッピング、社会的・経済的リターンの関係のデータの蓄積と可視化、情報開示による社会的・経済的リターン創出へのピアプレッシャーの強化、投資テーマをある程度絞りパッシブ運用でもインパクト投資に取組んでいくことなどが挙げられました。また、アセットオーナー(特に年金基金)については、企業年金基金の母体企業の関与によるサステナビリティ意識の醸成、年金基金のガバナンス構造の変革、受託者責任との関係の整理、運用方針や定款にインパクトの追求を追加することによるインセンティブ付け、公的年金基金については政府主導による積立金基本方針の見直しなどが挙げられました。

後者については、若い世代に関心を持ってもらうように業界横断的に裾野を広げる活動、資産を多く持つシニア層への啓蒙、SDGsESGや投資のつながりを分かり易く伝える啓蒙・金融教育、投資家側の社員教育、欧米との賃金上昇率の違いを認識した上での商品設計、確定拠出年金などでインパクト投資の選択肢を増やしていくことなどが挙げられました。

当日は、金融・市場関係者、事業者、業界関係者等からなる委員35名が出席し、関係省庁・オブザーバーも含めると約130名程度の参加がありました。

次回は、912日の開催を予定しています。

資料
フェーズ22回「インパクト投資に関する勉強会」議事次第
資料1 ヨーロッパの年金ファンドによるサステイナブル投資と日本への含意(SIIF
資料2 事務局説明:動画解説(SIIF
資料David Rouch氏インタビュー動画リンク
資料4-1 PGGM Piet Klop氏インタビュー動画リンク
資料4-2 PGGM Piet Klop氏資料
資料4-3 Nuveen Amanda Kizer氏インタビュー動画リンク
資料5 インパクト投資と受託者責任-GPIFがインパクト投資に取組む為の法的環境についての考察(公益財団法人 年金シニアプラン総合研究機構 特任研究員 三木隆二郎氏)
資料6 責任投資とステークホルダー資本主義-インベストメントチェーン上の新たな動き-PRI(国連責任投資原則))理事 木村武氏)
資料かんぽ生命のインパクト”K”プロジェクト(株式会社かんぽ生命保険 運用企画部長 野村裕之氏)



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