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金融庁・GSG国内諮問委員会共催「インパクト投資に関する勉強会フェーズ2」第1回勉強会が開催されました。
開催レポート 金融庁共催勉強会

2020年6月より開催している「インパクト投資に関する勉強会」の第2フェーズがスタートし、フェーズ2第1回勉強会が、2022年3月3日(木)にオンラインにて開催されました。本勉強会は、インパクト投資に対する金融市場関係者と行政の理解を深め、国内外の社会課題解決に向けたインパクト投資への取り組みの意義と課題を明らかにし、我が国金融業界の持続的な発展に資する推進の在り方について議論することを目的としています。

第1回勉強会では、昨年のG7ロンドンサミット開催国の英国政府が主導して立ち上げた「インパクト・タスクフォース(ITF)」での議論内容や提言内容について共有するとともに、インパクト投資に関するグローバルな議論や日本での対応について意見交換を行い、またフェーズ2勉強会への期待についても議論しました。

冒頭に座長の高崎経済大学学長水口剛氏、副座長の金融庁チーフ・サステナブルファイナンス・オフィサー池田賢志氏の両者から、ご挨拶をいただきました。昨今のウクライナ情勢に触れ、持続可能な社会を創っていくためのインパクト投資の役割が改めて問われているとのご意見とともに、本勉強会がフェーズ2を迎えるにあたり、気候変動ではCOP26を機に2℃目標から1.5℃目標の時代へとフェーズが変わったことやESG投資がインパクト投資へと徐々にフェーズが移りつつあることを挙げ、本勉強会の「フェーズが変わる」ことについて、改めて参加者で議論していきたいとのご意見を頂きました。また、インパクト投資をめぐる状況について、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立など、徐々にインフラやエコシステムが発展してきていることもご紹介頂きました。

続いて、SIIFインパクト・オフィサー小笠原由佳より、インパクトタスクフォース(ITF)の概要や成果、主な提言内容を紹介しました。また、本勉強会フェーズ2について、「インパクト投資の質を高めながら推進するためのケースの共有」を目的とすることや、今後3ヶ月に1回の頻度で開催していくこと、アセットオーナー機関から新たに委員が参画したこと、そして今後勉強会で取り上げるテーマの案を紹介しました。

次に、インパクトタスクフォース(ITF)に日本から委員として参加されたアセットマネジメントOne株式会社取締役社長の菅野暁氏、エーザイ株式会社CFOの柳良平氏、東京大学理事兼グローバル・コモンズ・センターダイレクターの石井菜穂子氏の3名から、ITFでの議論内容を共有頂きました(柳氏はビデオ録画の投影)。

アセットマネジメントOneの菅野社長は、ITFステアリングコミッティーの委員としてご参画された経験から、ITFでの議論のプロセスや実際の議論内容について共有頂きました。また、ステアリングコミッティーにご参加された所感として、欧州が圧倒的多数で議論をリードしていたということや、日本でも以前から重視されている「Just Transition(公正な移行)」が浸透してきていること、また、欧州では受託者責任としてリスク・リターン・インパクトを両立させることが主流となってきている一方で欧州と日米の間では明らかに差があること等をご指摘されました。ITFの今後の動きとして、提言を浸透させていくための取組が進められていることについてもご紹介頂きました。

続いて、エーザイ株式会社の柳CFOが昨年10月に開催された「GSG国内諮問委員会第十九回会合」でご登壇された動画を投影しました。柳氏は、ITFのワークストリームA(インパクトのための透明性、インテグリティ、調和)の委員として議論に参加し、特に実務家の視点を取り込むことの重要性を強調されたとのご説明がありました。実務家に響くような内容とするためには事例が重要であり、エーザイ株式会社がハーバードビジネススクールとの共同研究としてインパクト加重会計(IWAI)を取り入れた事例についてもインプットしたとのご紹介がありました。

続いて、東京大学グローバル・コモンズ・センターダイレクターの石井氏より、委員を務めたワークストリームB(SDGs達成と公正な移行のための資金調達)での議論や提言内容について共有頂きました。重要な論点として、「Just Transition(公正な移行)」の具体的なパスウェイをどう示すか、自然資本や社会資本の価格付けと市場経済への組み込みをどのように行うか、グローバル・ノースとグローバル・サウスの分断の問題にどう向き合うか、ブレンディッドファイナンスの資金の流れをどう作って行くか、等を挙げられ、具体的な動きとして南アフリカでのブレンディッドファイナンスのプロジェクト等もご紹介いただきました。

3名のITF委員によるプレゼンテーションの後、菅野氏、石井氏に加え、京都先端科学大学の加藤康之教授を迎えて、水口座長のファシリテーションのもとパネルディスカッションを行いました。

はじめに加藤氏より、これまでの議論やプレゼンテーションの所感を述べて頂きました。まず、ESG投資は既に伝統的な投資にインテグレートされて、次の潮流として社会的インパクトの議論にシフトしてきているというコメントを述べられました。また、ITFでの議論内容を鑑みて、インパクト投資は総合的なパフォーマンス評価が重要であろうという点、トランジションには大きなリターン・オポチュニティがあるという点、欧州ではインパクトそのものを評価して受託者責任としてリスク・リターン・インパクトを追求しているが、インパクトがいかに経済的リターンに結びつくのかが重要であるとの点等を述べられました。また、グローバル・ノースとグローバル・サウスの問題は重要であるということや、自然資本や無形資本のプライシングが非常に重要なテーマであり、それがインパクトの評価にもつながっていくのではないかとのご見解を述べられました。

ITFの議論は開発金融や新興国でのインパクトにフォーカスしているのではないか、という問いに対して、菅野氏からは、日本では未だニッチな領域ともいえるインパクト投資だが、欧州ではメインストリーム化しており、今後規模を大きくしていくには“南北の資金の流れを作っていくべき”との議論となっていることを紹介されました。石井氏は、ITFの議論に加えグラスゴーでの議論をご紹介し、GFANZ にも代表されるように、サステナブルな世界を実現するためのパラダイムシフトを金融がリードしていくという方向に潮目が変わってきているとのご意見を述べられました。また企業側としても、ステークホルダー資本主義の時代において、サステナブル・インパクトの追求は利他的な動きではなく、このままでは自らのビジネスのボトムラインが危ないから対応するという認識になっていることをご指摘され、インパクト投資についても受託者責任の議論の段階は既に過ぎているとの見解を述べられました。加藤氏からは、多くのインパクト投資がグローバル・サウスの問題を扱っており、オポチュニティが存在する一方で、リスクも高いため、ブレンディッドファイナンスの考え方が重要とのご意見を述べられました。

ブレンディッドファイナンスについて、南アフリカの事例のようにアジアに於いて同様の大きな資金が動く可能性があるのか、という問いについては、関係機関の熱意を掻き立て、政府が旗振りを行い、ADBや政府系金融機関、機関投資家や企業が協力して上手くスキームが組めれば、日本がリードしてアジア地域のネットゼロへのパスウェイを描き、ブレンディッドファイナンスを活用したトランジションを進めていく大きな可能性があるとの意見が挙がりました。委員のひとりである独立行政法人国際協力機構(JICA)の武藤氏からもコメントがあり、ブレンディッドファイナンスのグローバルなプラットフォームである「Convergence」でも、危機感を持って積極的な議論を行っていることや、新たなスキームを政府や市場関係者と協働で設計していく必要があるといったご意見を共有いただきました。

インパクトの測定に関しては、インパクトを意図した運用を行っていくには測定が非常に重要である一方で、ファクターによって測定ができるものとできないものがある、例えば気候変動・脱炭素関連は定量評価が進んでいるが、人権など社会的な側面や生物多様性については未だ測定方法が確立していないというのが現状であるとの意見が挙がりました。インパクトが明確に測定できないと、機関投資家が中・短期のリスク・リターンパフォーマンスに縛られるため、多様なESGファクターをどう定量化していくかが課題との意見が挙がりました。

パネルディスカッションの総括として、菅野氏は、長いインベストメントチェーン(受益者、アセットオーナー、アセットマネージャー、投資先)のなかで我々だけ意識が高くても意味がなく、社会の認識が変わる必要があるが、社会が変わるのを待つのではなく、企業や金融関係者が社会を変えるように動いていく必要があるとのご意見を述べられました。石井氏も、グローバルに活動しているアクターとして金融が率先して盛り立てていく必要があると述べられました。加藤氏からは、インパクト評価の前提として、投資対象となる企業や団体がどういったインパクトや課題を設定するのかが最も重要であると述べられました。

参加者より、インパクト投資を実施する際に常に人材不足の問題があるとして、海外ではなぜインパクト投資を増やしていくための人材が確保できるのか、という質問が挙がりました。これに対し、海外ではNon-State Actorsの力が強く、知的集団としてのNGOも発展しており、また、社会に流動性があるため、金融機関とNGO間での人材の横移動も非常に多いとの見解が示されました。日本では組織の在り方として「蛸壺」になりがちであり、これを脱却して流動化を推進し、またグローバルに繋がっていく必要があるとのご意見が挙がりました。

パネルディスカッションの後、ブレイクアウトセッションを行い、「国際的な流れの中で日本の金融機関に重要な対応は何か」「フェーズ2に期待することは何か」について、複数のグループに分かれて議論が行われました。

前者については、最終受益者である個人を動かすことや個人の金融資産の活用が重要であり、そのためにもインパクト投資の好事例や情報発信、エンゲージメントを行っていく必要がある、マクロな視点(社会変革や脱炭素)とミクロな視点(金融機関としてどのように実践していくか)の両方を持つことが重要、社会的インパクトの定量化と金銭価値化を進めるべき、といった意見が挙がりました。

後者については、実務に結びつくような実践的な議論の実施、金融機関の枠を超えたエコシステムづくり(アカデミアやNGOとの連携)、具体的な事例を共有したうえでのアクションの検討、経済的リターンとインパクトの同時達成の視点の追求、勉強会を通じた好事例の創出、等の意見が挙がりました。

当日は、金融・市場関係者、事業者、業界関係者等からなる委員35名が出席し、関係省庁・オブザーバーも含めると約170名程度の参加がありました。 次回は、6月17日の開催を予定しています。

資料
フェーズ2第1回「インパクト投資に関する勉強会」議事次第
資料1-1 GSG CEO Cliff Priorからのメッセージ動画
資料1-2 GSG CEO Cliff Priorからのメッセージ書き起こし(日本語仮訳)
資料1-3 GSG CEO Cliff Priorからのメッセージ書き起こし(英語)
資料2 インパクトタスクフォース報告書日本語訳
資料3 インパクトタスクフォースについて及び今後の勉強会についてのご説明(SIIF)
資料4 インパクトタスクフォースでの議論について(アセットマネジメントOne株式会社取締役社長 菅野暁氏)
資料5 インパクト・タスクフォース・ワークストリームBでの議論について(東京大学理事兼グローバル・コモンズ・センターダイレクター 石井菜穂子氏)



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